この会社が、これをつくる理由。グッドデザイン賞から考える、工芸とビジョン

よくできたランドリーバスケットでも、どの会社がつくるかによって、その意味は変わる。
2026年度グッドデザイン賞の審査委員長に就任した中川淳は、MARNAの製品を例に、デザインと企業のビジョンの関係を語っている。同じ製品を中川政七商店が手がけたとしたら、その素材やあり方は、会社が目指す方向と合っているだろうか。製品の出来を認めたうえで、つくる主体との関係を問う。そこに、彼のいう「ビジョンに資するデザイン」の視点がある。
中川は、中川政七商店の経営や各地の工芸産業への支援に携わってきた。工芸に引き寄せてこの問いを読むと、一つの器の向こうに、材料を調達する人、工程をつなぐ人、次の担い手を育てる人の仕事まで見えてくる。
経営と制作が、同じ方向を向くために
経営者が将来の事業を語り、デザイナーが形や使い心地を語る。その二つが別々に進めば、よい製品ができても、会社の次の一歩になるとは限らない。中川が重視する「共通言語」は、両者が判断を重ねていくための土台と読める。
工芸では、素材の確保や工程の分業、価格、技術を学ぶ場も、製品をつくり続けられるかどうかに関わる。新しい形を考えるとき、その後ろの仕組みも動かさなければならない。
グッドデザイン賞は以前から、人、産業、社会、時間という観点を掲げてきた。2026年の視点だけで賞全体が急に変わったわけではない。過去の受賞作をたどると、器物と、それを成り立たせる仕事を一緒に見る評価が、すでに積み重なっている。
有田焼とマッチが見つけた、技術の届け先
1616 / arita japan(2019)
このプロジェクトは、有田焼を単一の窯元や従来の産地イメージに閉じ込めず、外部デザイナーとの協働を通じて、新しい使用風景と国際的な文脈へ接続した。変わったのは器のかたちだけではない。有田という産地そのものが、どう理解されるかまで更新した点が大きい。

hibi 10MINUTES AROMA(2019)
マッチとお香、二つの産業の技術を一つの使い方にまとめた。擦って火をつけ、香りを楽しむ。2019年度の審査ユニット総評は、これを歴史あるものづくりの知恵を組み直す取り組みとして挙げている。新しい用途が生まれることで、その技術を次に使う人も生まれる。

毎日の動作と、製造の条件を見直す
SUWADAつめ切り「平刃」(2023)
新潟・三条の諏訪田製作所による「平刃」は、2023年度のグッドデザイン・ベスト100に選ばれた。鍛造や研削の技術を、日々の爪の手入れに用いる。工芸の技術が届く先は、食卓や室内の風景ばかりではない。

精成舎 うづらシリーズ(2025)
224porcelainによるこのシリーズは、2025年度グッドデザイン賞とグッドフォーカス賞[技術・伝承デザイン]を受賞した。新素材「Seido」を使い、釉薬をかけずに焼成する。マットな器肌に目を留めたあとで、その表面を可能にした素材と工程へ、もう一歩視線が進む。
形を変えるのか、素材から見直すのか。同じ器づくりでも、取り組む場所によって、産地との関わり方は変わる。

台湾・苑裡では、学ぶ道をひらく
台湾藺草学会の「Next Artisan, a new way to preserve traditional rush weaving art」は、2025年度のグッドデザイン・ベスト100とグッドフォーカス賞[新ビジネスデザイン]を受賞した。対象は、一つの藺草編みの作品ではなく、技術を学び、担い手を育てる取り組みである。
技法を整理し、段階を追って学べるようにする。認証の仕組みを設ける。経験者に蓄積されてきた技術へ、新しく入っていく道をつくる。素材の扱いと同じくらい、学び方を設計することが工芸の先を支えている。
日本の受賞例と並べて見ると、技術を残す方法の幅がわかる。新しい使い手へ届ける仕事もあれば、次につくる人を迎える仕事もある。どちらも、完成品だけを見ていては捉えにくい。


写真: 常若撮影

2026年10月15日追記:つながりは、一目で伝わるか
同日発表された受賞結果の審査後コメントで、中川は、応募作と企業・組織のビジョンとの関係を読み取ってきたと説明している。一方、その関係が一目で伝わる例は、まだ多くなかったという。使う人が、背景を時間をかけて読み解くとは限らない。そのつながりを自然に伝えることに、なお可能性を見ている。
この指摘を工芸へ戻すと、問いが少し変わる。長い歴史や工程を説明できるか。その先に、その工房が今これをつくる理由まで、ものの姿や使い方から受け取れるだろうか。
器の形、一本のマッチ、爪を切る刃、技を学ぶ道。受賞例の違いをたどったあとに残るのは、それぞれの仕事が、誰のどんな次の一歩になっているのかという問いだ。工芸のビジョンは、そうした具体のなかで初めて輪郭を持つ。
参考資料:
GDA公式ニュースリリース「2026年度グッドデザイン賞 新正副審査委員長を発表」