備えを、使う場所に置いておく。救助笛と器、畳から考えるフェーズフリー

備えた道具を、どこに置いているだろう。しまった場所を思い出せても、必要なときにすぐ手が届くとは限らない。道具の機能と、その道具が普段いる場所は、つながっている。

日常でも非常時でも役立つよう、身のまわりの製品やサービスを考える「フェーズフリー」。災害が起きてから取り出すものだけでなく、普段使うもののあり方から備えを考える発想だ。

鍵やバッグにつける笛、食卓の器、足もとの畳。同じ備えの話でも、使われ方は違う。まずは、小さなホイッスルが手元に残るまでを見てみたい。

黒い背景に並ぶ二つのキーホルダー。左は白黒の縞模様のM、右は黄色い猫の形。
左:effe alphabet 右:effe pensiero |写真/常若撮影

探す前に、手元にある笛へ

福井県鯖江市の眼鏡工房、プラスジャックが手がける救助笛effe。眼鏡づくりで培った素材の扱いや切削、研磨の技術を、小さな笛に用いている。

開発のきっかけは、鯖江市防災課からの問いだったという。配ったホイッスルがバッグの奥にしまわれるのなら、アクセサリーのように日頃から身につけられないか。吹く機能を備えることと、持ち歩いてもらうこと。その二つを、一つの形で考えた。

用途は、災害時の合図に限らない。夜道や通学途中に助けを求めるための笛でもある。身につけたり、鍵やバッグにつけたりする形は、必要なときに取り出せる場所へ笛を置く工夫だ。

素材は、眼鏡フレームにも使われるセルロースアセテート。研磨すると、色の層に光沢が生まれる。effe candyの配色、bottle prismのカット、alphabetの文字の形。好きなものとして持ち物に加わる姿を、それぞれに探っている。

音づくりにも、設計と測定の裏づけがある。公式説明では、人の耳が聞き取りやすいとされる2〜5kHzを意識した設計とし、工業試験場の指導のもと、5秒間の平均騒音測定で85dB以上を測定したと報告している。少ない息でも高音域の音を出せることを目指している。

白い背景に並ぶ、Mの文字と黒い猫の形のeffe。
精巧な構造から、それぞれ異なる発音通路が確認できる |写真/常若撮影

水が足りない経験から、器を考える

会津の三義漆器店が開発した合成漆器「ラクピカ」は、別の場所から備えに近づいている。特許庁の企業紹介によると、東日本大震災で避難所の水が不足し、食器洗浄が課題になった経験を参考に、塗料メーカーと共同開発した製品だ。

汚れや油を弾く撥水コートで、少量の水でも洗えることを目指す。洗うための水が足りない。その具体的な条件が、器の表面を見直すきっかけになった。この開発背景と機能はラクピカのものであり、漆器全般に当てはまるわけではない。

同じ畳でも、応える場面は違う

伊藤園の茶殻リサイクルシステムから生まれた「さらり畳」は、畳床に茶配合ボードを使う。紹介されているのは、緑茶成分による消臭性や茶殻の有効活用、木材使用量の削減といった、日常の住まいと材料利用の特長だ。非常時の衛生性能を示すものではない。

たたみのこうひんの防災畳は、防災拠点や避難所の備品として位置づけられている。縁付き半帖タイプは、設置しやすい軽量設計が特徴だ。日常向けのさらり畳と、避難所向けの防災畳。名前が同じ畳でも、材料や用途を一つにまとめることはできない。

ものの機能と、ものの居場所

好きな形だから持ち歩く笛。洗浄に使える水から考えた器。住まいの材料を工夫する畳と、避難所へ備える畳。すべてを同じフェーズフリー製品として括るのではなく、何を、どこで、どう使うかをたどると、備えの輪郭がはっきりする。

道具の機能を知ることと、必要なときにそこにあること。その間に、形や手入れ、置き場所の工夫がある。身のまわりのものを見るとき、使い方と一緒に、その居場所も考えてみる。備えを日常へ近づけるための、小さく具体的な始め方になる。

参考資料:

フェーズフリー協会

プラスジャック

三義漆器店

伊藤園

たたみのこうひん

effe:音づくりと測定条件

特許庁:三義漆器店「ラクピカ」の開発背景

こうひん:防災畳・縁付き半帖タイプ

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