工場の名前で、使い手に届ける。ファクトリーブランドと、産地をひらく仕事

日本の中小製造業の転換を象徴する工場のイメージ
日本の中小製造業の変化は、ビジネスモデルのなかだけで起きているわけではありません。これまで見えにくかった製造の現場にも、少しずつ新しい光が当たりはじめています。画像:写真AC

商品名は知っていても、それを作った工場の名前までは知らない。身のまわりには、そんなものがいくつもある。

金属を磨き、陶器を焼き、布を織る。大手メーカーや流通の後ろで製品を支えてきた地域の工場が、いま、自分たちの名前で商品を届けはじめている。ファクトリーブランドは、包装に工場名を加えるだけの仕事ではない。誰に何を届けるかを決め、その反応まで引き受ける仕事だ。

大企業が市場を受け止め、地域の中小工場が産地のなかで役割を分け合う。系列と下請けの重なりのなかで、戦後の高度成長期のものづくりは動いていた。消費者と直接向き合わないことは、当時の工場にとって一種の安定でもあった。発注元からの注文が続けば、機械は回り、職人の手も止まらない。

2008年のリーマンショックや2020年の感染症拡大は、受注に頼る経営の不確かさを改めて浮かび上がらせた。後継者不足、原材料費や人件費の上昇も重なる。自社ブランドやD2Cへの取り組みは、こうした条件のなかで市場との接点を増やす試みでもある。

作る技術の隣に、売る仕事が加わる

従来のOEMや下請けには、はっきりした利点があった。注文が安定しやすく、資金の流れも読みやすい。工場は、目の前のものを正確に作ることへ集中できる。

製造現場が大切にしてきたのは、QCD。Quality、Cost、Delivery。品質を保ち、コストを抑え、納期を守る。この三つを積み重ねることで、信頼は作られてきた。

ただ、その仕組みには前提がある。市場と価格の主導権は、多くの場合、工場の手元にない。

発注元からコスト削減を求められたとき、原材料費、人件費、設備投資の上昇分をそのまま価格に反映できる下請け工場は多くない。『2025年版 中小企業白書』でも、日本の製造業における中小企業の価格転嫁力は、大企業に比べて弱い傾向が見られる。コストは上がる。けれど、売値は簡単には上げられない。

数字にも表れている。日本の製造業の中小企業数は、2012年の429,468社から、2021年には335,552社へと減少した。会社の数が減るということは、地方産地のなかで細かく分かれていた分業の網目が、少しずつ薄くなっているということでもある。

自分たちで商品を企画し、価格を決め、消費者へ直接届けるD2C(Direct-to-Consumer)。価格や顧客との関係を手元に置ける一方、開発費や在庫、市場で受け入れられるかどうかのリスクも、自分たちで負うことになる。

これまで工場が得意としてきたのは、加工、金型、溶接、織り、焼成といった仕事だった。自社ブランドを始めると、そこに企画、ネーミング、撮影、EC運営、PR、カスタマーサポート、在庫管理が加わる。さらに、なぜこの商品を家に迎える価値があるのかを、自分たちの言葉で伝えなければならない。

OEMと自社ブランド、主導権と負担の置き場所

評価項目 従来の下請け・OEM 自社ブランド化・下請けからの脱却
リスクと安定性 注文量と仕事量は比較的安定しやすい。ただし、リスクは少数の発注元に集中する。発注元が注文を減らすと、工場側はすぐに対応しにくい。 事業リスクを分散しやすい一方で、初期段階では開発費、在庫、マーケティング費、市場の不確実性を自分たちで抱える必要がある。
価格と収益構造 価格は発注元や流通側が決めることが多く、コスト削減 の要請によって利益が圧迫されやすい。 価格の主導権を取り戻しやすい。D2C によって中間流通を減らし、ブランド力によって粗利率を高められる可能性もある。
技術と価値の伝え方 発注元の仕様に応えるなかで技術は磨かれる。ただし、工場が最終市場を深く理解する必要は必ずしもなかった。 技術を、消費者が理解し、使い、代金を払いたいと思える価値へ翻訳する必要がある。デザイン、語り方、市場理解が重要になる。
販路とデジタル対応 問屋や大口のBtoB顧客に依存しやすい。 EC、直営店、展示会、海外市場を自分たちで扱う場面が増える。商品情報や画像の管理も販売を支える仕事になる。

部品の精度を管理する力が、そのまま商品ページを作る力になるわけではない。写真で何を見せ、文章で何を伝えるか。買った人から問い合わせが来たら、誰が返事をするか。製造とは別の仕事を一つずつ整えて、ようやく技術が使い手に届く。

応援購入という、市場に出会う窓

Makuakeのような応援購入の場は、新商品を大量生産する前に、市場の反応を知る機会にもなる。購入額だけでなく、寄せられるコメントや反響も、工場にとっては使用者を知る手がかりだ。

先に注文を受けることで、在庫を抱える前に需要を探れる。ただし、開発や製造の費用が不要になるわけではない。試すための場ができたことで、工場は作り方とともに、伝え方も考えるようになる。

2019年、NC Network は、Makuake を運営するマクアケと、FUNDINNO を運営していた日本クラウドキャピタルのそれぞれと業務提携した。同社の発表では、Makuake での調達実績をもとに融資や流通販路での取り扱いが決まった事例も紹介されている。調達額は、単なる数字にとどまらない。地方の工場が、それまでの取引先や人脈の外へ出るための、市場での履歴書のような役割を持つこともある。

購入する側も、発売後の商品を選ぶのとは少し違う。まだ世に出ていないものを選び、その最初の使い手になる。「応援購入」という言葉は、そうした商品の出発点に関わる買い方を表している。

技術、使う人、そして小さな泡。田中金属製作所の転換

岐阜県の田中金属製作所は、技術をブランドへつなげた例としてわかりやすい。

TOTO など大手メーカーが存在する浴室まわりの市場で、この中小企業は正面から全面競争を仕掛けたわけではない。力を注いだのは、微細な泡を生み出す技術だった。

節水と美容を結びつけた製品コンセプトを打ち出し、美容や健康への関心が高い30代女性を主なターゲットに設定する。この判断が大きかった。

技術が技術の言葉のまま置かれていると、消費者は近づきにくい。その技術を、毎日使うシャワーヘッドの特徴として伝えることもできる。田中金属製作所は、部品加工で培った技術を、生活の道具へつなげた。

ここで変わったのは、技術の説明先だ。発注元に加工能力を伝えるところから、毎日シャワーを使う人に製品の特徴を伝えるところへ。誰に向けて話すかが変わると、技術の見せ方も変わる。

受注が減った先で、技術の用途を探す

広島のコーポレーションパールスターは、もともと繊維関連の製造を手がけていた。受注の減少を経験したのち、大学と連携し、「転倒予防靴下」の開発へ向かう。この商品が向き合っているのは、医療や介護の現場にある具体的な困りごとだ。靴下そのものを売るというより、高齢者が日常の移動のなかで転倒リスクを減らすためのものとして作られている。同社は別製品の「むくみ対策くつ下」の事業化にあたり、2014年に医療機器製造販売業許可を取得し、同製品の製造販売届出を行うなど、医療・介護分野へ事業を広げている。

滋賀県の協和工業も、水道バルブ関連の下請けから、耐震接合補強具の開発へと舵を切った。

こうした例を見ると、工場のブランド化が必ずしもライフスタイル化を意味しないことがわかる。すべての商品が、美しい雑貨になる必要もない。市場に届く自社ブランドは、転倒、漏水、震災、介護、修理といった、かなり具体的で、ときに面倒な問題から生まれることがある。

技術はそこで、新しい位置を得る。仕様の奥に隠れていたものが、商品を信頼する理由として前に出てくる。

ひとつのダッチオーブン、一膳の竹箸。D2C が工場に届けた消費者の声

新潟県の山谷産業は、Makuake で三層鋼のダッチオーブンを発表し、キャンプ需要を捉えた。2019年の同プロジェクトでは、支援総額9,555,932円、目標達成率1990%を記録した。

一見すると、アウトドア市場の成功例に見える。けれど、その底には燕三条の金属加工技術がある。工場は、自分たちの技術の根から離れたわけではない。ただ、現代の生活に近い入口を選び直した。

熊本県の山竹、Yamachiku は、別の道を選んだ。伝統的な箸の工場だった同社は、D2C を通じて、竹箸をもう一度、食の文化のなかに置き直した。箸は、使い捨ての小物でも、食卓の背景でもない。指先が毎日触れ、ごはんやおかずをつまみ、口元まで運ぶ道具である。山竹はその後、自社ブランドの売上比率を7割まで高め、V字回復を果たした。

福井の Hacoa、兵庫の神戸マッチ hibi 10MINUTES AROMA も、デザインの世界観と D2C を結びつけた例だ。Hacoa は木工の技術を日常のものへ変え、hibi はマッチと香りを組み合わせ、火を点ける10分を小さな時間の区切りにした。

SDGs を前に出しすぎない。玄米マドレーヌの語り方

兵庫県の Ms は、Makuake で焙煎玄米マドレーヌを紹介する際、SDGs を最初から強く押し出さなかった。まず伝えたのは、おいしさ。そのうえで、「コウノトリ育むお米」を使っていること、自然保全の背景があることを少しずつ見せていった。

先においしさを伝え、そこから米づくりや自然保全の背景へ案内する。商品の魅力と地域との関係を、どの順番で受け取ってもらうか。製造だけでは決まらない、この順序もブランドの仕事になる。

ここでの SDGs は、ラベルではなく、商品の語りのなかに通った細い線のようなものだ。語りすぎれば標語になる。控えすぎれば見えなくなる。その間をどう扱うかに、ブランド編集の力が出る。

一社の名前から、産地の名前へ

工場を知ってもらう入口は、商品だけではない。オープンファクトリーでは、普段は見えにくい機械や作業台、道具の使い方に触れられる。完成品になる前の工程を見せることも、工場が自らを伝える方法になる。

産地・産業 従来の強みと背景 地域ブランド化と Open Factory の実践 影響と構造の変化
新潟県 燕三条 金属加工、刃物 「工場の祭典」を通じて、地域の工場が製造現場を公開している。 製造現場が観光とブランドストーリーの一部になった。伝統的な金属加工技術は、高価格帯アウトドアや航空分野にも広がっている。
富山県 高岡 伝統鋳物、仏具 能作が100%錫のテーブルウェアを開発し、工場見学や製作体験も行っている。 工場が生産ラインからブランド接点へと変わり、地域そのものも再び見られるようになった。
福井県 鯖江 高精度チタン、眼鏡 THE SABAE という地域ブランドや、JAPONISM などの個別ブランドを展開。FACTORY TOUR や環境配慮型フレームにも取り組む。 高付加価値のOEMとしての強みを保ちながら、SDGs や若い世代の消費感覚とも接続している。
兵庫県 丹波 丹波立杭焼。約800年の歴史を持つ陶器産地 丹波焼陶器まつりを開催。次世代育成塾を設け、EC によるオンライン陶器市も進めている。 伝統陶器から高級飲食店、現代の住まいに合う照明などへ広がっている。
群馬県 桐生 ジャカード織物、Textile Textile Fair でデザイナーを集め、デジタル織機の導入によって短納期にも対応する。 歴史ある産地が、小ロット・多品種の注文にも応えられる柔軟さを持つようになった。
大阪府 東大阪 精密加工、町工場 JAXA のロケット部品開発に参加。東大阪ブランドを設立し、IoT を導入したスマート工場化も進めている。 町工場の従来イメージを変え、地域の工場が先端研究開発の一端を担う存在として見られるようになった。

Open Factory の魅力は、これまで見えにくかった工程に目を向けられることにある。機械や作業台、道具の使い方など、商品ページでは伝わりにくい細部が、製品を理解する入口になる。

産地の工場がともに扉を開くと、ブランドは一社の名前を越えて、その地名とも結びついていく。

売ったあとも、関係は続く

2024年の日本のBtoC-EC市場規模は26.1兆円。ECが広がるなか、工場が消費者へ直接情報を届ける経路も増えた。Makuakeで新商品を知り、SNSで工程を見て、商品ページで材料を確かめる。現場へ足を運べるオープンファクトリーもある。

自社ブランド、工場公開、BtoBを続けながらの情報発信。選ぶ道は違っても、使う人に自分たちの仕事を知ってもらう点でつながっている。

その道は、必ずしも華やかではない。写真を撮り、物語を考え、消費者に返事を書き、売れない現実にも向き合う。慣れた工場の仕事とは、違う緊張がある。

価格を決めることと、問い合わせに返事を書くこと。その両方が工場の仕事になる。ファクトリーブランドがひらくのは、商品を売る扉であると同時に、売ったあとも使い手と向き合うための扉なのだ。

自社の名前を掲げる工場と、消費者へ開かれていく製造現場のイメージ
工場が自分たちの名前を商品に印すとき、製造の現場と消費者のあいだに、見える道がひとつ増えていく。画像:ぱくたそ

参考資料:

  1. 中小企業庁『2025年版 中小企業白書』 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/index.html
  2. 経済産業省『令和6年度 電子商取引に関する市場調査』 https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005.html
  3. Makuake https://www.makuake.com/
  4. 燕三条 工場の祭典 公式サイトhttps://kouba-fes.jp/

山谷産業:2019年の支援実績

NC Network:2019年の業務提携

広島県:医療用靴下の事業展開

中小企業庁:田中金属製作所

中小企業白書2017:田中金属製作所の製品コンセプト

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