箸置きを重ねると、小さな家になる。堀越太郎と「暮らしの道具 よはくを」が日常に残す余白
- 7月28日
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木でできた四つの屋根を順番に重ねると、一軒の小さな家になる。食事の前に屋根を取り外せば、それぞれが箸置きに。食べ終えたら、また元の場所へ戻す。
テーブルの上に残るのは、あとで引き出しへしまう細かなパーツではない。屋根を載せた、小さな家だ。
この「家形箸置き」には、堀越太郎のものづくりの考え方がよく表れている。箸置きが散らばりやすいなら、ひとつに重ねられるようにする。使わない時間もテーブルに置いておくなら、眺められるかたちに整える。
収納したものが、視界から消えるとは限らない。並べ方を変えることで、その場に置いておけるものもある。
埼玉県出身の木工作家・堀越太郎は、ホリコシ製作所を主宰し、自身のプロダクトブランド「暮らしの道具 よはくを」で、用途が明快な小さな木の道具を作っている。そこには、少しの遊び心もある
コーヒーペーパーはヨットの帆になり、靴べらは枝にとまる鳥のようにスタンドへ収まる。持ち手を伸ばしたサイドテーブルには、小さな動物が立っているような姿が見えてくる。
使い方が、そのまま道具の輪郭になっている。
空間を見ることから始まり、木のそばへ
堀越太郎は1987年、埼玉県生まれ。武蔵野美術大学の工芸工業デザイン学科で、インテリアデザインを専攻した。
木工の徒弟制度から仕事を学び始めたわけではない。最初に身につけたのは、空間を捉えるための感覚だった。人が室内をどう歩くのか。家具はどれほどの場所を取り、ものとものの間には、どのくらいの距離が必要なのか。
卒業後は城南職業能力開発センターの木工科へ進み、図面の先にある実技を学んだ。その後、家具工房に勤務。特注家具の製作をはじめ、ホゾ組みや木材乾燥など、家具が完成するまでの工程に携わった。
空間デザインと木工。この二つの経験は、現在の仕事にも並んでいる。
学校や図書館などで使われる特注家具や什器を手がける一方、食卓の隅に置ける小さな道具も作る。公共空間の家具では、人の動線や長時間の使用を考える。手のひらに収まるものでは、指先が木の表面に触れたときの感覚や、使い終えた道具がどのように置かれるかを見る。
堀越のデザインは、木材を前にしたところから始まるとは限らない。テーブルの上に使われずに残っている場所や、玄関でいつも置き場に困っているもの。そうした小さな状況が、道具を考えるきっかけになる。
ブランド名が変わり、「余白」の輪郭が見えた
堀越は2017年秋、個人ブランド「サケノサカナ」を立ち上げた。
名前の由来は、酒の肴。食卓の中心に並ぶ料理ではないが、酒を飲む時間に、ひと味を添えてくれるものだ。その名には、道具が占める位置についての堀越の考えが、すでに含まれていた。大きく目を引かなくても、使う時間の印象は変えられる。
工房はその後、埼玉県ときがわ町へ移転。2023年、地元のデザイン会社・合同会社akaritoとともにブランドを見直し、「暮らしの道具 よはくを」として再出発した。
「よはく」は、余白。
掲げた言葉は、「暮らしにゆとりを、空間に遊び心を。」毎日のなかに少し余裕をつくり、ものが置かれる場所に、わずかな遊びを加える。
新しい名前に合わせて、作品の意味を後から作り直したわけではない。初期の道具を振り返ると、重ねる、吊るす、とめる、持ち上げるといった構造が、以前からもの同士の間にある空間を扱っていた。
「よはくを」という名によって、その視点が見えやすくなったのだ。
ブランド刷新後の写真には、木目のアップだけでなく、手が道具を取る動きや、床やテーブルに落ちる影、使い終えたあとの状態も写されている。
コーヒーを淹れること。食事をすること。玄関で靴を履くこと。道具は台の上に単独で飾られず、日常の動作のなかに置かれている。

機械で正確なかたちを切り出し、手で触れ心地を決める
「よはくを」の製作工程は、手仕事と機械生産のあいだにある。
機械鋸やCNCを使って初期の切断を行い、寸法と構造を整える。同じものを繰り返し作る際にも、精度を保ちやすい。角や曲面、手に触れる部分の仕上げに入ると、作業は再び人の手へ戻る。
紙やすりで、機械加工のあとに残った角の鋭さを取り除く。オイルを塗ると、木目と色が少しずつ現れる。
動物や人のような表情をもつ作品では、わずかな曲線もこの段階で調整される。ほんの少し多く削るだけで、鈍く見えたり、辺りをうかがっているように見えたりする。体を前へ伸ばしているような姿になることもある。
堀越は、この製法を「中間」に位置するものとして捉えている。精度や作業効率は機械が担い、使い心地に直接関わる部分は手で確かめる。
完成した道具には、木を磨いたあとの丸みが残る。すべてを一点ずつ手作業で仕上げる場合とは、価格の組み立て方も変わってくる。
毎日手に取り、置き、汚れを拭き取る生活道具では、同じ寸法に揃える工程と、人の手で確認する工程の役割が異なる。堀越は、それぞれを必要な場所に振り分けている。

すぐにしまわなくていい、七つの道具
堀越の作品には、「出しっぱなし」を前提にしたものが多い。
「出しっぱなし」は、使ったものを片づけず、そのまま置いておくこと。一般には散らかった状態を指す言葉だが、「よはくを」の道具にとっては、外に出ている時間もデザインの一部になる。
「暮らしの道具 よはくを」
製品名 | 素材 | デザインと特徴 |
chopstick rest(家形箸置き) | 本体:ブナ材 屋根部分:ウォールナット、チェリー、オーク、ブナ | 「家」をモチーフにした箸置き。四つの屋根部分を取り外して使う。重ねて置けるため、ひとつずつ散らばりにくい。 樹種を重ねる順番によって、家の表情も変わる。食事に使っていない時間は、テーブルの上の小さなオブジェになる。 |
coffee paper holder(yotto) | オーク材、真鍮 | 約15枚のコーヒーペーパーを差し込むと、ヨットの帆が現れる。ペーパーを収納する動作が、船のかたちを完成させる。 コーヒーを淹れない時間も、そのまま卓上に置いておける。 |
dripper stand(hook) | オーク、真鍮 | 支柱を噛むように固定する、カンチレバー式のドリッパースタンド。 木と真鍮は、それぞれ異なる表面をもつ。真鍮は使ううちに色が変わり、時間とともに落ち着いた風合いが加わっていく。 |
kitchen paper holder(ARCH) | チェリー材、真鍮 | 上部に、曲げ木で作られたアーチ状のハンドルを備える。 必要な場所へ持っていきやすく、キッチンペーパーを立てた状態のまま移動できる。ハンドルの曲線が、縦に伸びる道具の印象をやわらげている。 |
shoehorn(トマリギ) | メープル、鉄棒 | 鳥が枝にとまっているようなフォルムの靴べら。 木の板の内部には磁石が埋め込まれ、鉄製のスタンドに吸着する。使い終えた靴べらを近づけると、枝へ戻るように定位置へ収まる。玄関に置いてあるときは、小さなオブジェとして見える。 |
side table/stool(stick) | ホワイトアッシュ | ステッキのように上へ伸びた部材は、持ち運ぶためのハンドルでもある。 置いた姿には、小さな動物を思わせるところがある。組み立て式で、サイドテーブルや短時間腰掛けるためのスツールとして使用できる。持ち手をつかめば、使いたい場所へそのまま運べる。 |
wall clock(dodecagon) | メープル、メラミン化粧板 | 木材同士の接合部にメラミン板を挟み、文字盤の目盛りとして見せた壁掛け時計。 異なる素材の細い線が、時刻を示す役割を担う。十二角形の輪郭と接合部の構造が、そのまま時計の表情になっている。 |

「家形箸置き」では、重ねることが収納と展示の両方につながっている。
「yotto」では、備品だったコーヒーペーパーが、道具の外観をつくる一部になる。紙を差し込む前は、まだ帆のない船。コーヒーを淹れる支度をすると、ヨットの姿が完成する。
「hook」は、カンチレバー構造をそのまま見せた道具だ。ドリッパーは台座の中央に載らず、支柱の横へ引っかかる。噛みついているようにも見える。
オークと真鍮の表面は、ひとつに馴染ませず、それぞれの質感を残している。とくに真鍮は、手で触れ、使い続けるうちに色が変わる。使用の跡が消えずに積み重なっていく。
こうした道具のユーモアは、装飾を加えることで生まれているのではない。
支点をひとつ動かす。一本の部材を長く伸ばす。収納するときの動作を、全体の輪郭に組み込む。それだけで、見慣れた道具が少し違って見える。何に使うものなのかは、きちんと伝わる。
ときがわ町では、木の道具がキャンプ用品の隣に並ぶ
「ホリコシ製作所」があるのは、埼玉県ときがわ町。
森林に囲まれたこの地域には、木工に取り組む若い作り手も集まっている。それぞれの工房が、家具や小物、空間のための製作を行う。木工品は、伝統工芸として展示される場所だけに収まってはいない。
堀越の工房があるエリアは、キャンプ民泊「NONIWA」ともつながっている。NONIWAが運営するアウトドアショップ「GRID」には、キャンプ用品と並んで、堀越の無垢材の道具が置かれている。
木の道具はガラスケースを離れ、キャンプやピクニック、屋外でコーヒーを淹れる場面へ移る。
コーヒーペーパーホルダーやサイドテーブルも、ここでは工芸品として説明される前に、実際にどう使えるかが目に入る。手に取り、運び、必要な場所に置く。そのあとで、木の表面や構造に気づく。
この置かれ方は、「よはくを」の仕事によく合っている。大切に飾るためだけのものではない。使われることが、道具がその場所にある理由になる。
最後に、箸置きを重ねた小さな家へ戻ろう。
食事の前には、屋根を一枚ずつ取り外す。食べ終えたら、また重ねる。ウォールナット、チェリー、オーク、ブナ。順番を変えるたび、屋根の色の並びも変わる。
片づけたあとのテーブルは、何もない状態にはならない。
そこには先ほどまで使っていた箸置きが、小さな家になって立っている。その隣には、すぐに用途を決めなくてもよい空間が、少しだけ残っている。
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